なぜ今、東京の音楽を世界へ開くのか
開演前のホールに座って、客席を見渡すことがあります。
賑わっています。今日も多くの人が集まっている。けれど気づくのです。二十年前もここに座っていた人たちが、そのまま年を重ねている。新しい顔が、あまり増えていない。
各楽団は、教育プログラムに、無料公演に、若い世代へのアプローチに、長い時間と労力を注いできました。
けれど、この国の人口構成そのものが変わっていく中で、国内だけを見ていては、いつか限界が来ます。演奏の質がどれほど高くても、聴く人が減っていけば、この街の音楽は細っていきます。
問題は音楽の側にあるのではありません。音楽と聴き手が、出会えていないのです。
出会いは、国境を越えて起こりえます。
この街の演奏を聴くはずの人は、日本の外にもいます。ただ、その人たちは東京に何があるかを知りません。
東京を訪れる人の多くは、食事と買い物と観光に来ます。音楽を目的に来る人は、まだごくわずかです。ウィーンやザルツブルクには、音楽のためだけに世界中から人が集まるのに、東京にはその流れがありません。
ここに一つの可能性があります。
これからの聴き手の多くは、今アジアで生まれつつあるのです。
ASEANの国々は経済的に豊かになりつつあります。豊かさが一定の水準を超えたとき、人は文化を求め始める。それは歴史の中で何度も繰り返されてきたことです。
彼らの国には、まだこれほどの厚みを持つオーケストラ文化がありません。そしてヨーロッパは遠い。バンコクからウィーンまで12時間以上、東京までなら6時間です。
アジアの人々にとって、最も近い音楽の都は、東京です。
その事実に、まだ誰も気づいていません。東京自身も含めて。
だから、まず情報を開くことから始めました。
9つの楽団の公演情報は、それぞれの公式サイトに散らばり、形式もばらばらで、多くは日本語でしか読めません。外から見れば、東京で何が聴けるのかを知る方法がなかったのです。
会場も、指揮者も、曲目も、すべて英語で読めるようにしました。毎月自動で更新され、常に最新の状態が保たれます。
これは始まりに過ぎません。情報が揃えば、次は伝えることです。東京がどれほど豊かな音楽の街であるかを、世界に向けて語り続けること。
私たちは、演奏会を主催しません。旅行を手配することも、チケットを売ることもありません。
この街には、すでに素晴らしい楽団があり、ホールがあり、それを支える人たちがいます。必要なのは、そこに人が集まる道筋をつくることです。
楽団があり、ホールがあり、旅行会社があり、ホテルがあり、料理店がある。それぞれが役割を果たし、それぞれが報われる。そういう生態系が育つことを願っています。
Musikverein.Tokyo は、その森の中の一本の木でありたいと思っています。